最後の打者、2ストライク。 その瞬間――足が震えた。
あの夏の決勝戦。
2000年夏。
私は29歳で、夏の甲子園・熊本予選決勝の球審を務めていました。
対戦カードは、
九州学院 × 八代第一(現・秀岳館)。
九州学院が3連覇をかけて臨んだ一戦です。
球場全体が、独特の緊張感と熱気に包まれていました。
試合は終盤までもつれ込み、
9回裏、2アウト、ランナーなし。
八代第一、最後の打者となったのは4番打者。
彼と、九州学院のバッテリーは、中学時代の同級生同士でした。
ここまでドラマが揃うと、
勝負というものは、技術や戦術だけでは測れない領域に入っていきます。
1球目、2球目。
速球に対して、彼はしっかり踏み込み、迷いのない強いスイングを見せました。
結果はいずれもファウルチップ。
しかし、タイミングも合っており、内容は決して悪くありません。
むしろ、「これなら打てる」と感じさせるスイングでした。
球審として見ていた私は、
この時点では、何か異変が起きるとは思っていませんでした。
2ストライクとなり、迎えた3球目。
バッテリーがサイン交換をしている、そのほんのわずかな時間。
それまで地面をしっかり捉えていた打者の両足が、
突然、大きくブルブルと震え始めたのです。
「これは、スイング出来ないかもしれない」
審判は、決めつけてはいけません。
ただし、準備は必要です。
私は、
・甘い球での3球勝負になる可能性
・力勝負で来る可能性
そういったことも頭に入れながら、その一球を待っていました。
結果は、外角に決まる速球。
打者は、手が出ませんでした。
見逃しの三球三振。
その瞬間、九州学院の3連覇が決まりました。
球場は歓声に包まれ、
勝者と敗者の感情が、一気に交錯する時間が流れます。
私は、その足の震えが、強く印象に残りました。
あの時の震えを、
「弱い」「度胸がない」
そういった外側の言葉で片づけることはできないと、私は感じています。
そこには、生存本能をはじめとした深層心理が、確かに関わっている。
本人と話していないので、真相は分かりません。
もしかすると、
チームや周囲を背負ってしまった責任感、
仲間を思う優しさ、
2ストライク後の異様な歓声への身体的反応、
そういったものが、同時に押し寄せたのかもしれません。
その彼は、のちに私の大学の後輩になります。
少し話を聞いてみたこともありましたが、
当時のことについては、
「まだ話したくない」
そう言っていました。
だから、私は深く踏み込みませんでした。
勝負の世界では、
結果がすべてだと言われることもあります。
しかし、人の中には、
言葉にできないまま時間だけが過ぎていく体験も、確かに存在します。
当時の八代第一は、
夜中までノックをするほど、
県内でも一、二を争う練習量を誇るチームでした。
技術も、体力も、努力も、
間違いなく積み重ねてきた。
それでも、
肝心な場面で足が震え、
やる前に勝負が決まってしまうことがある。
それは、あまりにも寂しい現実です。
だからこそ、私たちが提案したいのは、
目標に相応しいメンタルを、先に手に入れておくことです。
結果が出てから整えるのではなく、
勝負の舞台に立つ前に、
「揺れても戻れる状態」をつくっておく。
打席に立ち、スイングしている最中は、
身体は「今」に集中しています。
しかし、間が生まれた瞬間に、意識は一気に内側へ向かう。
「打たなければ」
「終わってしまう」
「自分が決めなければ」
そんな言葉にならない思考が、
ほんの数秒のうちに押し寄せてくる。
あの時、彼の足が震え始めたのも、
まさにそのインターバルタイムでした。
重要なのは、
インターバルタイムに何が起きるかではなく、
インターバルタイムに、自分にとって素晴らしい選択をすることです。
自分との対話能力。
イメージトレーニング。
結果ではなく、「動き」や「感覚」に意識を戻す習慣。
そして、日頃からの言葉使い。
自分に向けて、どんな言葉をかけ続けているのか。
これらは、本番だけで急に使えるものではありません。
日常の中で、ルーティンとして積み重ねておく必要がある。
メンタルの揺れは、
プレーの最中ではなく、インターバルタイムにしか起こらない。
インターバルタイムにあれこれ考えるから、メンタルが揺れる。
だからこそ、
自分との対話能力や、イメージトレーニング、
日頃からの言葉使いなどを、ルーティンとして持っておく必要がある。
いつでも肝心な時を待ち侘びているか、
それとも、肝心な時に色々なものを背負ってしまうか。
この時の選択は、
魂の声に従うか、回避行動に出るかが、
身体の反応という現象として表現されます。
私たちが目指したいのは、
メンタルが揺れない状態をつくることではありません。
勝負の場で、
揺れない人など、ほとんどいない。
大切なのは、
メンタルが揺れたその瞬間に、
しなやかに自分の軸へ戻れるかどうか。
インターバルタイムに何を考えるかではなく、
インターバルタイムに、
どこへ戻れる準備ができているか。
震えをなくすのではなく、
震えの中でも、魂の声に戻れること。
あの夏の決勝戦は、今も私に、
「しなやかに戻る準備はできているか」
そう問い続けています。
📩 無料メール講座のご案内
日常の中で、少し立ち止まる時間として
受け取っていただけたら嬉しいです。
・体験セッションのご案内は こちらから
・お問い合わせは こちらから
福岡正一が大切にしている、5つの視点
― 競技・指導・人生に共通する在り方 ―
結果や正解を求める前に、
人がどこに立ち、どう在るか。
そのことを、5つの視点から綴っています。
① まだ見ぬ景色を共に探す
結果や正解ではなく、「共に在る姿勢」について書いています。
② 大舞台でこそ大胆に!!
緊張や恐れを消すのではなく、引き受けた上で立つ在り方について。
③ 選手の存在にフォーカスする
評価や結果の前に、存在そのものを見るという視点。
④ 指導者の実存的変容
指導法や正解ではなく、指導者自身の在り方が静かに変わっていく瞬間について。
⑤ 大一番でチャレンジできるかどうかは
幼少期の過ごし方で決まる
幼少期の体験が、大人になってからの挑戦にどうつながるか。
これらは、順番に読む必要はありません。
今、気になるものから辿ってみてください。

この記事へのコメントはありません。