没頭する

5年ほど前でしょうか。
こんな相談を、よく受けていました。

「ゲームばかりして困っています」
「ユーチューバーになると言って聞きません」

何が一番困っているのかを、もう一歩だけ尋ねてみると、
返ってくる答えは、だいたい同じです。

「なかなか勉強してくれません」
「宿題をしてくれません」

ここで一度、立ち止まって考えてみたいのです。

これは、誰が困っているのでしょうか。

多くの場合、
困っているのは、「子ども」ではなく「親」です。


「本当に好きなものを見つける方法」
「集中力を養う方法」

もし、そうしたものがあるとすれば、
私はとてもシンプルだと思っています。

飽きるまで、やらせること。

——まずは、それだけ。


もちろん、現実的な影響は起こります。

勉強しなければテストの点数は下がる。
宿題をしなければ叱られる。
身体にも変化は出るかもしれない。

いずれも「現象」です。
しかし、それが本質ではありません。


ただ、そのたびに

「ゲームをやめて宿題しなさい」
(好きなことに集中している状態を中断する)

「宿題をしないならゲームは禁止」
(報酬と引き換えに動かす)

これを繰り返していると、
集中は途中で断ち切られ、
行動は条件付きのものになっていきます。

幼少期から、
「やりたいからやる」ではなく
「許されたからやる」
そんな在り方が、少しずつ身についていく。


誤解のないように、ひとつだけ。

ここでひとつ、核心に触れておきたいことがあります。

これは、
「宿題をしなくていい」と言っているわけでも、
「大人は何もしなくていい」と言っているわけでもありません。

学ぶことの大切さも、
社会のルールも、
責任を引き受けることも、
もちろん必要です。

ただ――

私が見ているのは、
その関係の「順番」なのです。

世の中ではよく、
やるべきこと→好きなこと
の順で語られます。

でも本当に大切なのは、
好きなこと=没頭が土台にあって、 その上に学びが乗っているという順番です。

まずは、没頭する力。
その上に、学びや規律。
逆ではありません。


そして、そのまま大人になっていく。

「好きなことは何ですか?」
「何をしているときに、ワクワクしますか?」

そう聞かれても、
「わかりません」
と答える人は、少なくありません。

それは、感受性が乏しいからでも、
意欲がないからでもありません。

集中していると止められ、
条件付きで動くことを求められ、
評価や正解を先に与えられる。

そうした時間を、
長く過ごしてきただけです。


この話は、親だけのものではありません。

指導の現場でも、
「能力はあるのに続かない」
「やる気にムラがある」
そんな選手に出会うことがあります。

そのとき、
意志や覚悟の問題として見るのではなく、
そういうきっかけや生い立ちがあったのかもしれない
と知って関わるだけで、
指導は少し楽になります。

能力がないのではない。
才能が足りないのでもない。

まだ、深く没頭した経験がないだけ。


ただし、
今すでに「没頭できない状態」にある人も、
何かが欠けているわけではありません。

大丈夫なのは、
自分の魂の声に正直であるときだけです。

行動が、
評価のためでも、
条件のためでもなく、
自分の内側からの声と一致している状態。

その一致がある限り、
没頭は、まだ起きていなくても構いません。


没頭は、
無理につくるものではありません。

魂の声に正直な時間を重ねた先で、
気づいたら、そこに立っているものです。

その一歩を、
代わりに踏み出すことはできません。

けれど、
迷いながら立ち止まる時間に、
そばにいることはできます。

問いを置く人。
急がせない人。
評価しない人。

その役割を担うのが、
コーチという存在なのだと思っています。


ここで言う没頭は、
スポーツや創作の世界で言われる
いわゆるゾーン、あるいはフロー状態
重なる部分があるのだと思います。

ただ、それは
意識して入るものでも、
手に入れにいくものでもありません。

あとから振り返って、
「あの時間は深かった」
そう気づくものです。

集中していた、というより、
邪魔されずに、
自分の内側と離れずに、
ただ在り続けられた時間。

没頭とは、
ゾーンに入るための方法ではなく、
ゾーンが起きてしまう土壌のようなもの。

だからこそ、
飽きるまで、やり切ること。
飽きるまで、やらせること。

その先に、
静かに立ち上がってくる状態なのだと思っています。


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― 競技・指導・人生に共通する在り方 ―

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人がどこに立ち、どう在るか。
そのことを、5つの視点から綴っています。

これらは、順番に読む必要はありません。
今、気になるものから辿ってみてください。

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