ここぞ、という場面がある。
絶好球が来た。
パスを受けた瞬間、シュートコースがきれいに空いている。
ピッチャーのボールが甘く入った。
一瞬、世界が静かになるような感覚。
本来なら、
「打つ」「蹴る」「放つ」
それだけでいい場面だ。
けれど、そこで多くの人は考えてしまう。
――今のは本当に打ってよかったのか
――ここでシュートを選ぶのは正解だろうか
――失敗したらどう見られるだろう
その思考が生まれるまでにかかる時間は、
ほんの 0.2秒 にも満たないかもしれない。
けれど、その0.2秒のあいだに、
ボールはミットに収まり、
シュートコースにはディフェンダーが滑り込んでくる。
チャンスは、
「失敗したから消える」のではなく、
「考えたから消える」ことがある。
ここで少し、脳の話をしたい。
人間の脳には、大きく分けると
新しい脳 と 古い脳 があると言われている。
新しい脳は、言葉を使い、理屈で考え、分析する脳。
知識、戦術、方法論、正解探しを得意とする。
一方で、古い脳は、
身体感覚、直感、反射、リズムを司る脳だ。
スポーツの現場で、
一瞬の判断が求められる場面で働くのは、
圧倒的にこちらの 古い脳 だ。
特に日本人は、とても勤勉だ。
練習熱心で、勉強家で、
「どうすれば上手くいくか」を真剣に考える。
指導書を読み、動画を見て、
成功事例を集め、理論を頭に入れる。
それ自体は、決して悪いことではない。
むしろ、成長に必要なプロセスでもある。
ただし――
問題が起きやすいのは「試合の最中」だ。
試合で新しい脳を使おうとすると、
どうしても時間がかかる。
「今はこういう場面だから」
「ここではこの選択が正解で」
そう考えているあいだに、
現実は次の瞬間へと進んでしまう。
不思議なことに、
本当にうまくいったプレーのあと、
選手に理由を聞くと、こんな答えが返ってくることが多い。
「気づいたら、打ってました」
「体が勝手に反応してました」
「考えてなかったです」
それは、決して偶然でも、才能でもない。
練習の中で、考えることをやり尽くした結果、
試合では考えなくてよくなっているだけだ。
だから私は、
「考えるな」「感覚だけでやれ」
とは言いたくない。
考えることは、練習でやればいい。
どう立つか。
どの角度で入るか。
どんなリズムが合うのか。
失敗して、修正して、また試す。
頭と体を何度もすり合わせる。
その積み重ねが、
身体の奥に静かに沈んでいく。
その過程で大切なのは、
試合で起こり得る場面を、あらかじめすべて体験しておくことだ。
うまくいく場面も、
失敗する場面も、
想定外が起きる場面も。
すべてをイメージし、
一度「起きたこと」にしてから、試合に臨む。
そうしておくと、
本番で起きている出来事は、
初めての出来事ではなくなる。
そして試合では、
古い脳に任せる。
見えたものに反応する。
感じた流れに乗る。
「今だ」と思ったら、出る。
うまくいくかどうかは、
その場ではもうコントロールできない。
でも、
その一瞬に身を預けられるかどうかで、
プレーの質は大きく変わる。
練習は、頭で。
試合は、感覚で。
そう言い切ってしまうと、
少し乱暴かもしれない。
けれど少なくとも、
試合中に考え直す必要がないところまで、
練習でやり切れているか。
そこは、
一度立ち止まって見直してもいい。
絶好球は、
待ってくれない。
シュートコースは、
一瞬で閉じる。
だからこそ、
大事な場面ほど、
新しい脳ではなく、
古い脳を使える準備 をしておきたい。
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