ストライクゾーンとメンタル

 

 

3,000試合以上、アマチュア野球の審判をしてきた経験として、今回は球審から見た「ストライク」と「ストライクゾーン」についてお伝えできればと思います。

一昔前までは、捕手が投球を捕球した後にミットを動かすことは、スポーツマンライクに反するという、いわゆるアンリトゥンルールやビヘイビアの観点から「悪」とされていた時代がありました。

また、捕手が球威に負けてミットが揺れてしまうと、ボール判定は「捕手の責任」と捉えられることもありました。

最近では、フレーミングと称して、かなり大きくミットを動かす場面も見られます。

以前、ある捕手に、「どんな意味があるのか」を尋ねたことがあります。

返ってきた答えは、「審判を惑わすためです」というものでした。

球審は、投手がボールをリリースする瞬間に目を付けると、ミットに収まるまで無意識に目が投球を追い続けます。

投球の軌道を、イマジナリーに線として追っている感覚です。

だからこそ、ボール球をストライクゾーンへミットで動かされると、非常に見やすくなる。

その反面、厄介なのは、ストライクからストライクへ動かされた時です。

際どい球の場合、「キャッチャーが誤魔化したのではないか」という先入観も働き、判定が難しくなることが多いのではないでしょうか。

ストライクとストライクゾーン。

ルールブックの中では、それぞれ別々に定義されています。

しかし実際には、画面越しに見ても分かる通り、特に高めのゾーンなどは個体差がかなり現れています。

今シーズンからMLBで導入されたABSチャレンジシステムは、審判から見ても非常に興味深いルールです。

判定は人が行うのか。それとも機械が行うのか。

ルールはひとつの決め事です。どうやったら楽しめるか、少しずつ進化していくでしょう。

では、プレイヤー側はどうでしょうか。

ストライクゾーンは原則的には定義されている。しかし実際には、個体差によって判定には違いが生まれる。

そのことを踏まえて試合に臨むかどうかで、メンタルの取り扱いは大きく変わってきます。

そして、この感覚は今も昔も、ハイパフォーマーほど自然と持ち合わせている感覚があり、往年の名選手はバッテリーと打者だけではなく審判も巻き込んだ探り合いの名勝負を繰り広げてきました。

話は少し逸れます。

30年ほど前、四国の審判の先輩が都市対抗野球へ派遣されるということで、応援へ行ったことがありました。

その時、審判控室におられた西大立目永先生が、

「よう!福岡くんじゃないか!ここへ座りなさい」

と声をかけてくださり、試合を隣で観させていただくことになりました。

六大学の先輩後輩という関係性の中でも、到底あり得ないような特等席でした。

西大立目先生は早稲田大学大学院の教授であり、体育学の中でも「審判」を専門に研究されていた非常にユニークな先生です。

往年の高校野球ファンの方なら、一度は名前を聞いたことがあるかもしれません。

エピソードは数え切れませんが、東海大山形戦で大差の場面、マウンドに上がったPL学園・清原選手へ、

「真っ直ぐを投げなさい」

と伝えた話は有名です。

その西先生が、試合中に僕へこんな質問をされました。

「福岡くん、120kmを超える投球が、ベース上を通過する時間はどれくらいだと思う?」

答えられずにいると、

「1000分の1秒だよ」

と教えてくださいました。

そして続けて、

「人間が正確に判定できるのは500分の1秒までなんだ」

と言われました。

つまり、甘い球は別として、際どい球に関しては、人間の目では完全に正確な判定はできないということになります。

だからこそ、ストライクゾーンはそこにいる人たちが積み重ねて作り上げる空間なんです。

投球の軌道。捕手の動き。投手の球質。試合の流れ。先入観。

人は、様々な情報を無意識のうちに受け取りながら判定をしています。

僕の場合は、年間300試合前後という経験の中で、バッテリー、バッター、ベンチからのヤジ、映像などによって、繰り返しインプルーブされてきた賜物だったのだと思います。

そして同時に、僕自身の“癖”もまた、チーム側に研究されていたことでしょう。

球審から見る空間。

キャッチャーやバッターの構えによって、見え方が大きく変わることがあります。

キャッチャーであれば、寄って構える人。真ん中に構える人。体型や体格。

それだけでも、かなり印象は変わります。

バッターも同じです。

スクエア。オープン。クローズド。

重心の置き方。ユニフォームの着こなし。

そういった細かな違いによっても、ストライクゾーンの“見え方”は変わっていきます。

何で俺だけこのボール球をストライクと言われるんだろう。と感じるのは球審からはそう見えているからです。球審もまたその間違いによって自己を改良していくのです。

夜の時間はDAZNでスポーツをチェックすることも増えましたが、たまたま日本ハム戦を見る機会が続きました。

その中で、日本ハム・田宮捕手のフレーミングを見ていて、右打者の外角、特に左打者の内角直球がボール判定されているケースが多いような気がしていました。

ファウルを除けば5球でフルカウントになります。

その中の一球。また一球。

ストライクをボールと判定される。

または、球審から見てストライクに見える投球をボールと判定される。

これは大袈裟ではなく、こうした細かな積み重ねも、試合の流れや投手心理へ少なからず影響しているのではないかと感じています。

メンタルの揺れは人それぞれですが、状況は少しずつ不利な方向へ向かっていきます。

メンタルとフレーミング。

みんながやっているから自分もやる。

審判が惑わされるのではないかという感覚や、“なんとなく”で取り入れる。

そういったケースもあるのかもしれません。

フレーミングでミットを故意に動かすことで生まれる有利不利は、審判と捕手、それぞれの感覚や思考、またその場に出来上がる空間によって変わってきます。

プレーヤー側に立てば、審判や相手打者によって、フレーミングを取り入れるのか、取り入れないのかを判断することも重要なのではないでしょうか。

フレーミングをやるためにやるのか。

勝つためのストーリーの中で取り入れるのか。

しっかりと現在地を確認しながら取り入れていく必要を、僕は感じています。


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